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超小型衛星打ち上げプロジェクトが磨き上げた確かな技術

2010年に種子島宇宙センターから打ち上げられたH-ⅡAロケットには、
日本の宇宙開発の歴史に確かな一歩を刻む超小型衛星が搭載されていました。

その名はUNITEC-1。

通称「しんえん」と呼ばれたこの衛星は、コンペによって独自性や技術力の高さを認められた
日本国内6つの大学の宇宙用コンピュータを搭載し、金星を目指したのです。

宇宙やそこに関連する研究と技術の裾野を広げ、
人材育成や将来のビジネス展開への道を切り拓く「しんえん」。

そこにはもうひとつ、
日本フューテックと担当技術者である石田健二によるチャレンジの物語も紡がれていました。

何重にも施されたバックアップ機能を、限られたスペースで確実に動作させる

「しんえん」に携わるというお話をいただいたのは2008年頃でした。当時、東大阪宇宙開発協同組合(現・宇宙開発協同組合)で技術統括責任者をされていた菊池氏のお声掛けで、「しんえん」の電源制御装置開発メンバーに加わりました。受け持った役割は基板の設計・製作・実装です。

この頃の当社および私自身は、宇宙技術とは無縁でした。主に携わっていたのは産業機器です。まったくの異分野でしたが、「宇宙に関わることができる」ということは、非常にワクワクする思いでした。ただ、その思いが苦労や悩みに取って代わられるに、さほど時間はかからなかったのですが……。

地球上で使用する機器と宇宙で使用する機器の何よりの違いは、「現地に行って修理ができないこと」です。当たり前のことですが、この違いはさまざまな課題を生み出します。

まず、万が一の故障に備えて二重、三重のバックアップ機能(回路)を搭載します。必然的に装置類は大きくなり、重くなる。でもそれではロケットに搭載できません。小型化を同時に実現する必要があるのです。これらの課題は、当然、基板に求められる性能に結び付いていきます。膨大な機器を動かすための配線や装置を、極めて限られたスペースに収める必要があるのです。もちろん基板自身も故障に備える必要があります。それらのことを踏まえて設計を行うのは、まさに未知の領域。途方もない作業に思えました。

素材や役割の仕分けを徹底して行った結果、「のこぎりで切り出せるほど」整理された基板を実現

ただ、電源回路の設計や製造・実装という技術自体は、すでに確立されたものです。革新的な技術が次々に生まれているかというと、決してそうではない。まして宇宙開発では、信頼性も重要なポイントです。実証データの少ない新技術より、確立された技術の方が安心して使えるという側面も持っている。つまり、「既にあるものを、どこまで高めていくか」が問われているのです。

例えば、ノイズを減らすための取り組み。パワー系、制御系、そしてバックアップ用のアナログ系というそれぞれラインは徹底して区分けしました。近くに配置されると互いが影響し合ってノイズを生み出すからです。また、熱の処理も重要なポイントでした。地上と違って宇宙空間では、熱は空気を伝って流れません。基板上の銅箔を伝わるのです。これをきちんと処理しないと、基板の性能や寿命に悪影響を及ぼします。

そこで、「熱を出しやすいもの・出しにくいもの」などを仕分けし、それらの配置場所を工夫することで熱を筐体に向けて流していく設計を行いました。もちろん、小型化を突き詰め、徹底的に無駄を排除していきました。それらの結果、非常に電気的に美しい設計ができました。ラインなどの仕分けの成果は、「のこぎりで切っても回路を取り出せるほど」だと自負しています。

簡単に見つかる「できない理由」ではなく、「何とかして実現する方法」を考え抜くように

2010年に打ち上げられた「しんえん」は、外宇宙まで到達して信号を発信。それを地上でキャッチすることができました。これは予定していたミッションの一つをクリアするものであり、超小型衛星としては初の快挙でした。また、多くの大学が連携して技術開発に取り組むという、将来に向けた大きなステップとなるプロジェクトでした。

私自身は、宇宙開発技術に携わるようになり、大きな変化を感じています。
まずは先ほどもお話したように、品質を追求する姿勢です。

電源回路の技術は確立されていますが、それは、私たちが今まで普通に接していた品質の要求水準と照らし合わせたときの話です。「宇宙で使用する」といったように、品質の要求水準を変えれば、まだまだ改善すべき余地は残っているのです。考えようによっては、私たち基板技術者が妥協してしまっていたせいで、無駄に大きい基板や、無駄に修理を発生させている基板を作っていたかもしれません。このことに対して、「それはおかしい。もっと品質を追求できるはず」と考えられるようになりました。

次に、プロジェクト全体を見て仕事ができるようになったことです。以前は、目の前にある基板のことだけを考えていました。極論すれば、自分が設計した基板が何に使われ、どんな役割を持っているのかを知らなかったのです。しかしこのプロジェクトでは、頻繁に行われる全体会議を通して、基板の持つ役割や意味を深く理解することができました。それは、「今、自分は何をすべきか」を考えることにつながりました。妥協せず品質を追求するようになったのも、プロジェクト全体の動きやメンバーから寄せられている期待がわかるからこそだと思います。

こういった姿勢の変化は、産業機器での仕事にも効果を生んでいます。どの仕事にも、品質、費用、納期という3つの条件はついて回ります。どれか1つでも厳しい条件になると、以前は、「そんなの無理」と言ってしまうことが多かったのですが、今はなんとか実現する方法を考え出そうとするようになりました。また、関係者とコミュニケーションを重ねていく中で「ここは自分たちが頑張るべきところだ」と納得できると、迷いなく前進するようになりました。「できない」ではなく、「どうやったらできるのか?」という発想への転換こそ、プロジェクトで得た大きな果実です。

宇宙に興味を持った技術者が集まる拠点づくりを!高い「マインド」を、多くの人と共有していきたい

「しんえん」以降、超小型衛星プロジェクトには継続的に関わっています。携わった衛星の数は、2015年5月現在、7基です。衛星が課せられているミッションの難易度は回を追うごとに高まり、それにともなって、電源制御装置が果たすべき役割もどんどん大きくなっています。といっても、小型化も求められ続けているので、技術的なハードルの高さは当初から比べ物にならないほどです。

当社では、宇宙開発に加わった経験を活かして、自社オリジナル製品として太陽光発電装置を開発しました。充電効率を高めたりバッテリーの損傷を防いで長寿命化させたりするための基板設計やソウトウェアの調整は、プロジェクトでの経験が大いに役立っています。最適値を求めて、とことん調整を繰り返したからです。この製品のように、超小型衛星プロジェクトで磨いた技術を日々の仕事へと展開していくことが当社の目標です。

私個人としては、宇宙産業を通して製造業や技術者が元気になっていってほしいと考えています。私がそうであったように、「宇宙に携わる」ということはワクワクする体験です。この気持ちを、1人でも多くの技術者に味わってもらいたいのです。そうすることが結果として、技術力の向上やビジネスの成長につながっていくはずです。宇宙に関わる楽しさを少しだけ先に味わわせてもらった私としては、興味を持ってくれる人同士をつなぎ合わせる役割や、人と情報が集まる拠点づくりに取り組んでいきたいと考えています。

人材育成も今後の私にとって大きなチャレンジです。設計は「アートワーク」と呼ばれることからもわかるように、電気的な美しさを表現する個人のセンスや知識に依存する部分が大きい仕事です。そのため、人を育てることが非常に難しいとされてきました。ただ、私がプロジェクトで学んだ「妥協を排して品質を追求する」「プロジェクト全体を見る」という姿勢は伝えていくことができるはず。姿勢とは、“マインド”と言うこともできます。十人十色の設計を行っているとしても、その根底にあるマインドが共通しているようなチームや会社。それを目指していきたいです。

近年、CADソフトの高性能化によって設計もかなり簡単にできるようになりました。
納期短縮やコストダウンに貢献しているのですが、そこには、技術者としてのマインドが忘れ去られつつあるように思います。
ソフトに任せっきりで、本来は省けた無駄や実現できたはずの長寿命化に目を向けられていない可能性があるのです。
これは、技術者ならではの面白さとはかけ離れた仕事です。
また、そういった仕事は、長い目で見れば余計なコストを生み出しかねない。
つまり、顧客も技術者も、誰も幸せではない仕事です。
その流れを断ち切り、技術の根底にあるマインドが尊重される仕組みをつくっていきたいです。
宇宙に携わって技術を磨くことは、そのための大きなきっかけになります。
だからこそ、これからも高いハードルに向けてチャレンジを続けていきたいです。

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